こんにちは渡邉司です。
最初にこの記事を書いたのは2020年の夏頃だったかな。正確な日付は覚えていませんが(笑)
このサイトができたばかりの時に時間にゆとりがあったので書いたのですが、それがきっかけでPodcastに出演できたり、現場以外でワインに携わる方々と出会えたりと、自分を知っていただく大きな一歩になりました。
そんな意味でも、とても思い入れのある記事の一つです。
そんなちょっと前に書いた記事に関して、今はどのように考えているのかも踏まえてバージョンアップさせています。
この記事を書いた当時はまだソムリエ資格を持っていなかったこともあり、「資格もないのに何を語るんだ」と言われることもありました。
だからこそ、ソムリエ資格を取得した今、改めて“渡邉司流・ワインリストの考え方”を書いてみたいと思います。
自分の好きなワインは、ほとんど使わない
いきなり「え、そうなの?」と思われるかもしれませんが、本当です。
多分ソムリエといえば自分の好きなワインをリストに載せて「俺が作ったリストはすごいだろ?」と言いたい人種であると僕は思います。
そりゃあそうです。長い時間とお金をかけて勉強したワインとその資格を生かして仕事をしているのですからね。
実を言うと、僕自身もかつてはそうでした。
営業前や休憩中、営業が終わって家に帰る途中の電車の中で資格取得の勉強に追われ、貴重な平日休みは試飲会に通い、雀の涙のような給料でワインを買い、一応実績などを出したし、資格も取得したわけです。
その過程で出会った「俺が好きなワイン」を推したくなる気持ちは当然です。
ただ、それだけではリストは成り立ちません。
ワイン価格が高騰する今、頭を使って利益を出せるリストを作らなければ、お店もスタッフも守れません。
だから僕は「自分の好みは3割まで」「残り7割はお客様とお店のために」と決めています。
良いワインリストとは?
大前提として「お客様が喜ぶリスト」であること。
これは当たり前として、そのうえで大切なのは会社にお金が入るリストでもあること。だと思います。
お店で使用しているワインは自分のお金ではなく、会社やオーナーのお金で仕入れています。自分の財布は痛くないわけです。
だからこそ僕らソムリエは「利益を確保しながらお客様を満足させるリスト」を作る責任があります。
お客様が喜ぶのは当然のこと、そしてしっかりと数字を出して利益を出すこと。そしてお店に見合った価値や価格のリストであること。
この三つが揃っているお店は相当レベルの高い店だと思います。ですが、これが揃っているお店はなかなかありません。
僕が知っているだけでも数える程度…それくらいとても難しいことだと思いますし、僕自身も実感しています。
とはいえ、偉そうなことを書いている僕も以前は、自分の色を強く出したリストを作ったことがあります。
ロゼワインをグラスで5種類以上提供したり、ロゼワインだけでペアリングを組んだり、オレンジワインを常時10種類置いたり…。
今自分が思っても面白い試みだったと自負していますし、またやってみたいなぁ。と思うのですが、多分やらないでしょう。
当時は「俺が選んだリストとワインを飲んでくれ!!」みたいな感じで自分というのを全面に出していかなくてはいけないと思っていましたから。どうしても自分の色に全てを染めたくなってしまいました。
今はそんなことないんですけどね。いや、要望があればやるかな。なかなか難しいですけどね。
だってどんなに魅力的なリストだろうが、面白い試みだろうが、ロスを出してしまえば意味がありませんし、売り上げの上がるリストでなければ意味がありません。
スパークリングワインは抜栓したら泡が抜けるのでその前に売り切らなくてはいけないですし、スティルワインだって抜栓すれば酸化します。いくらコラヴァンを使用しても酸化はしてしまうのです。
そのリスクを背負いながらも、数字を見て、回転率を意識して、お客様にきちんと届くワインを選ぶ。それが“良いリスト”だと今は思います。
数字と結果が信頼をつくる
ソムリエである前に、僕はお店の一員ですし、一人の会社員です。
オーナーソムリエではありません。多分このブログを読んでいる方の大半はそうでしょう。
だから「数字」は避けて通れません。絶対に追い求めなければいけません。
オーナーでなくてもソムリエでなくても、サラリーマンとして「数字」から目を背けてはいけません。
厳しくいうと、数字の見れないソムリエは一流ではありません。鋭いテイスティングができる感性や長年の経験は武器ですが、武器を活かすために逃げてはいけないのが数字です。
売上、原価率、回転率、顧客満足度…この4つは僕の基本的な羅針盤です。
たとえば、売上は日別・時間帯別(ランチ・ディナー)・カテゴリー別に分解して、ボトル・グラス・ペアリングそれぞれのデータをとります。
原価率は仕入れと提供価格のバランスだけでなく、廃棄率やスピル(注ぎすぎ)まで含めて管理する。
|
↑今はこんな便利な道具がありますからね。
泥臭くやり続け、そして数字を見える形で積み重ねてこそ、初めて自分の色を出せるのです。
僕は最高で年間売上を前年比150%まで伸ばしました。これは決して派手な魔法ではなく、前述した羅針盤だけでなく、日々の計算、業者への交渉、スタッフ教育、料理人とのセッションなどの地道な積み重ねの結果です。
たとえば、仕入れは単価交渉だけでなく、季節のピーク前に在庫を薄く持つタイミング調整で原価率を改善したり、グラスワインのラインナップは「味の橋渡し」を意識して、料理の流れに合わせた3段階の提案を標準化し、客単価を自然に引き上げる仕組みにしました。
さらに、サービス用語を共通化して提案のブレをなくし、スタッフの習熟度に関わらず一定以上の体験を提供できるようにしたのです。
時には「このタイミングでこのワイン飲むのかよ」というオーダーをする方もいます。いきなり貴腐ワイン飲む人とかね。
料理とのバランスも考えてこちらは色々と考えているのですが、これも時代ですかね、出す時もあります。出さない時もありますが。
この辺の匙加減はまた別の機会にしましょうかね。これも話が長くなりそうなので。笑
偉そうに書いていますが、何よりも大切なのは「継続すること」です。
一度だけの好成績なら誰にでも可能ですが、続けるには仕組み化と意識改革が欠かせません。
そこで僕が徹底したのは、1、週次の数値レビュー、2、小さい仮説を短いサイクルで検証、3、成功要因を言語化して共有、の三つ。
たとえば「春先の寒い日(気温13℃でも暖房がついているなら意外とすっきりとした白が動く」という日があるとすれば、それを「晴れ・気温15℃以下・平日・暖房(外気温と室温の差)」の条件をセットにして実績を比較する。みたいな感じ。
少し仰々しく感じかもしれませんが、この条件をしっかり言語化をするとお客様は「この店のスタッフは論理的に考えているのだな」と安心感や信頼感を持ってもらえると思います。
これが全て正しく動くかはわかりませんが、自分なりの言葉で考えて発信をすること。
インプットとアウトプットの量は多ければ多い方が絶対的に良いと僕は思います。
そしてさらに大事なのはフィードバックをすること。結果を翌週のミーティングで検証し、お客様の満足度は肌感でしかその場は感じることができませんが、この数字を重ねれば重ねるほど売り上げと評価につながっていくと僕は思います。
本当に地道ですが、こうした小さな改善を重ねることで、波のある繁忙期・閑散期に左右されにくい土台ができていくとともに、自分がいなくても他のスタッフが素晴らしい仕事をしてくれる環境ができるはずです。
そしてその上げた数字をもとに首脳陣やオーナー、そしてお客様の信頼を勝ち取り、初めて“3割の自分らしさ”をリストに込められる。
残りの7割はベーシックに、誰が来ても安心して楽しめる構成にする。その上で、季節の一手や異端の一本を「ここぞ」という文脈で差し込む。
こうすることで自分のお店のオリジナリティを出しつつ、あなたというソムリエの個性も出すことができます。
ワインリスト作成の心得
繰り返しますが、作成の心得として再度以下の三つを挙げておきます。
-
好みは3割、残りはお客様とお店のために
-
数字を徹底して管理する
- 結果を出してから、自分の色を反映する
ワインリストはただの飲み物リストではありません。利益を生み、スタッフを支え、お客様の体験を豊かにする「お店の大事な戦略」です。
最後に
将来独立を目指す方や、有名店で働きたい方、これから飲料部門の責任者となり自分の形を出そうと思っている方にとって「ワインリストの裏側」を少しでも知っていただければ嬉しいです。
現役で現場に立つソムリエにはもっとやってみてもいいんだよ。と言いたいですし、これからソムリエを目指す方、資格を取ろうと思っている方は数字の勉強は早めにしておけよ。と言いたいですし…言いたいことだらけですね。笑
でもこうやって文字起こすとソムリエって結構緻密に考えられていると思いませんか?でもこれができているお店というのはなかなか見ないのが現状です。
裏を返せば、これができればほぼ勝ちは確定できるかと思います。ただ、道のりは結構長いです。一朝一夕では辿り着けるものではありません。
ですが、日々考えつつ行動していけば必ず結果が出ると僕は信じています。
お客様としてお店を利用する方は、ワインリストを見るとき、「こんなに考えられて作られているんだ」と思っていただけたら幸いです。
次回もまた、少し違った角度からお話しします。どうぞお楽しみに。
|
↑いつか使ってみたいこちらのコラヴァン。笑