こんにちは、サービスマンの渡邉司です。
このホームページがリニューアルしたのが今年の8月、つまりすでにソムリエ試験が始まっているわけですが、SNS上では一次試験の結果をアップしている方の写真をちらほら見かけます。
多分今月末まで一次試験は受けることができると思いますので、最後の追い込みをかけている方はもちろん、二次試験の対策でテイスティングセットを購入したり、試験対策をしてくれるお店に通っている方もいると思います。みなさん頑張ってください。
さて、そんな中、僕は元部下からこんな相談を受けました。
「本当は資格なんてなくてもいいんじゃないかと思っているんです」
「司さんみたいに、最初は無資格でもやっていけると思うんです」
この時期にこんな相談を持ちかけてくるので、多分彼らは今年の受験はしていないと思うのですが、彼らの言い分もわかります。
今日はそんな資格不要論?について書いていこうと思います。
ぶっちゃけ、いらない?
以前も話したことがありますが、僕は長い間ソムリエ資格を持っていませんでした。
実際に資格を取ったのは2022年、31歳の時です。
この業界でそれなりの経験を積んできましたが、「資格は本当に必要なのか?」とつい最近までずっと疑問に思っていました。
資格がなくてもワインの知識はそれなりにありましたし、そもそもソムリエである前にサービスマンとしての仕事の方が大事だと思っていました。ですが、様々な経験を経て2022年にようやく重い腰を上げて資格を取得しました。
僕は「ソムリエではなくサービスマン」と常々言っています。ワインはあくまで二の次、三の次。ただのツールです。
まずはお店の運営を円滑にし、美しいサービスを心がけ、経営を学び、お客様をどう喜ばせるかを考える。根本はサービスマンであることを大切にしてきました。
もちろん必要があればワインの説明もしますし、料理に合うワインを提案することもあります。メーカーズディナーも企画しました。
それなりのレストランでシェフソムリエも経験しましたし、手前味噌ですがつい先日コンクールにて準優勝もしました。
それでも僕にとってワインは、あくまでお客様を喜ばせるためのツールの一つであって、主役ではありません。
主役は常にお客様ですし、現場でお客様を喜ばせてこそサービスマンとソムリエとしての価値がある。
この考えはずっと変わりません。
マネージャーであろうが、本部にいようが、シェフソムリエをしようが、根底にあるのは「現場のお客様を喜ばせること以上に大切なことはない」という信念です。
事務仕事や本社機能を持つ立場や役職にしかできない業務も重要ですが、その道も辿ってきたからこそ断言できます。
現場のお客様を喜ばせる以上に大切なことはありません。
繰り返しますが、お客様を喜ばせるためのツールとしてワインや他の飲料があると考えています。
本当にいらないの?
とはいえ、レストランは水商売。アルコール…特にワインを売ることが重要だと思っています。
もちろんそれは間違いありませんし、綺麗事言っても売り上げが立たなければ給料も上がりませんし、ボーナスだって出ません。
ですが、ここで一つ質問です。
ワインを飲まない、もしくはお酒が飲めないお客様をどうやって喜ばせますか?
レストランで飲むお酒は高いから一杯だけでいいやというお客様もいますし、ワインを飲まずにビールを選ぶ人や、健康志向でノンアルコールを選ぶ方も増えています。
そんな時、みなさんはどういうサービスしますか?または、どうやって自分のお店や自分のファンにしますか?
これにきちんと答えられるサービスマンはどれだけいるでしょうか?
「お酒を飲まないお客様は自分のお客様ではない」なんて馬鹿げたことを言うソムリエも昔見かけましたが、自分がオーナーならともかく、雇われている以上そんなことは言えません。思ってたって言ってはいけません。オーナーじゃないんだから。
それを平然と言うのは「自分はお客様を喜ばすことができません」と言っているようなものです。
実際問題いるというのが現状ですが…。
僕自身は特にアルコールを飲まない方がいても気にしないのですが、どうしてこう思ったのか?それはコロナ禍で緊急事態宣言が出された時にお酒の提供ができない状況になってしまい強く実感しました。
アルコールが出せない現実。まさに禁酒法の時代へ逆戻り。
あれは本当に大変でした。僕は当時都内のビストロで勤務していたのですが、当然ランチ営業でもアルコールが出せません。
ゆったりとした雰囲気でランチコースを楽しみながらシャンパンも飲めない。辛い状況でした。
調べてみたら3回目緊急事態宣言の時に完全に酒類の提供禁止になって、2回目までは時間の縛りはありましたが、酒類は出していた気がするなぁ。と、当時の記憶が蘇ります。
この経験からより一層「お酒はただのツールだ」と自分の中で腑に落ちたというかはっきりと理解できたと思っています。
もちろんお店の規模や運営会社の規模からして営業をする方が赤字になるところもあったと思います。ですが、特に営業せずにとりあえずお店を休みにしていただけのところもありましたし、そんな話も聞きました。
たまたま僕が勤務していたお店が小規模なお店で、ランチと短い時間のディナーだけでもなんとか乗り切ることができた(実際にはとても苦労しました)からこんなことが言えるのかもしれません。
しかし、この経験は今になってとても生きていると実感できます。これは何も考えず動かなかった人には分からないかもしれません。
ちなみに当時のお店は席数も10席程度で、ランチの単価で1,000円ちょっと。Uber eatsも導入してランチだけで40,000円以上売り上げたこともあります。入れ替わりくるお客様にUberの配達員、とてもじゃないですがシェフと二人だけじゃ捌くにも限界があります。
それでもランチ客の常連さんは多く獲得しましたし、のちに「Uberで食べてから好きになってきました」という方達も多くいました。
お酒を提供しなくてもお客様を喜ばせることができる。そんな経験から、「やっぱり資格いらないんじゃない?」と思っていました。
時間とともに変わった考え
コロナ禍の影響もありましたが、僕は長い間「資格は必要ない」と思い、無資格のままでした。
周囲から「まずは資格を取った方がいいよ」と言われ続けても、なかなか納得できずにいました。
もちろん資格がある方が有利です。独立や転職の際も役に立ちいますし、履歴書では経験やサービス力はなかなか伝わりません。
資格は一つの判断基準として有効ですし、給料面でも多少の差は出ます。
それでも僕は「現場でどんなお客様にもサービスできて当たり前」と思い、間や所作、ワイン以外の飲料についても幅広く学んできました。
もしその全ての時間とお金をワインだけに費やしていたら、今こうしてブログを書くこともなかったかもしれません。
視野の広さは僕の強みだと感じています。お酒以外の知識もなければ、この業界で生き残るのは難しいでしょう。
そんな僕が資格を取ろうと思ったのは、独立して個人で動くことが増えてからです。
「資格なんかいらない」と言い続けてきた僕ですが、お客様や周囲から「独立したなら資格を取ったら?」と勧められることが多くなりました。
それでも最初は耳をかしませんでした。「資格取得にお金と時間を使うなら、その分サービスを学ぶ方がいい」と本気で思っていたからです。
しかし、時間が経つにつれて冷静に考えるようになり、「取らない理由、もうないんじゃないか?」とふと思いました。
そこからは行動が早く、受験料を払い、対策サイトに登録し、ギリギリで申し込み。
一次、二次、三次試験と順調に進み、無事ソムリエ資格を取得しました。
「資格なんていらない」と思い続けて10年。ようやく手にした資格ですが、今のところ劇的な変化はありません。でも、いずれ役立つ場面が来るはずですし、取ったからには活かせるように働いていきたいと思っています。
取っておいて損はない
正直、資格があるから得をする、ないから損をする、というほどの大きな差はありません。
飲食系の転職サイトでも「ソムリエ資格があると給料が高い」と書いてありますが、実際はそこまで大きな違いはないように感じます。
給料が少し上がることはあっても、微々たるものです。
この業界では「給料が高い=責任や負担も増える」
とは限らないので、資格の有無にこだわりすぎる必要はないと思います。
会社に意見したいなら資格を持っておくべきですが、それ以外ではお客様にマウントを取られない程度でしょうか。
高い受験料を払って資格を取っても、知識は常にアップデートしなければいけませんし、資格を持つことで新たなプレッシャーも感じます。
今はお客様の方がワインを多く飲んでいるので、知識面でも、飲んだきた数でも追いかけられる感覚もあります。
でも、プロとして知識を磨き続けることは必要だと思っています。
資格を取ったことで生まれる葛藤もありますが、今はこう言えます。
資格、あった方がいいよ。
では、また。
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ワインも食材も地産地消ですね。