古酒は好きですか?こんにちは渡邉司です。
日々ワインだけでなく様々なお酒を扱って仕事をしていますが、その中でも特に古酒が大好きなんです。
皆さんは古酒、好きですか?このような質問をすると、「古酒ってだいたいどれくらい年数が経った物をいうの?」となりますよね。
正直僕も何年から古酒というのかは明確にわかっていません。
ソムリエの先輩方に聞いても意見はバラバラで、「10年経てばもう」みたいな意見もあれば「最低20年」、「古酒特有のあの香りがあれば古酒よ」という人もいました。
まあ感じ方は人それぞれだから良いよね。というのが本音なんですけど、そんな曖昧な基準でも古酒が僕は大好きなんです。
ボルドーやブルゴーニュの古酒は当然のこと、シャンパーニュの古酒のエロティックな感じも好きだし、ウイスキーやブランデーなどの古酒も大好きです。
ウイスキーやブランデーの古酒なんてもうね、色気ありすぎでしょ!っていうくらいセクシーなんですよ。
液体でセクシーってなんやねん。となるのですが、セクシーなものはセクシーだから仕方ありません。
というわけで、ソムリエ歴9年の僕が古酒を好きになった理由を書いていこうと思います。
きっかけは先輩から
そもそもどうして僕が古酒にハマったのか。
それは昔働いていたとあるワインバーがきっかけでした。
そのお店はフランスワインを中心に扱っていて、グラスやボトルで出すワインのほとんどがフランスワイン。
それまで僕は国ごとにワインを選ぶことはあまりなく、どの国のワインも偏りなく飲んでいたので、フランスワインに特化したラインナップはとても新鮮に感じました。
現行のヴィンテージはもちろん、結構古いヴィンテージも揃っていたので、初めて古酒を本格的に扱い、味わう機会が訪れました。
そんな中で先輩が「これ、ぜひ飲んでみて」と勧めてくれた一本の古酒を口にした瞬間、今までのワインとはまったく違う奥深い香りと味わいに衝撃を受けました。
あまりの衝撃で写真を撮り忘れたのですが、Château Giscours 1979年でした。
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さすがに同じヴィンテージは見つからなかったな…。
それなりに色々な国のワインと古酒も飲んできたつもりですが、このワインの放つ複雑な香りや、時間を重ねることで生まれるまろやかな舌触り、そして飲み終えた後に残る余韻の長さは他のお酒では中々味わえないのではないでしょうか。
魅力的とは少し違う、蠱惑的な感じですかね。人を虜にする何かがそこにあったような気がします。古酒には現行ヴィンテージでは味わえない、時間が生み出す特別な魅力があるのだと気づいたのです。
それ以来、古酒をもっと知りたい、もっと味わいたいという好奇心が膨らみ、今ではすっかり古酒の虜になっています。
僕的には古酒の魅力は大きく分けて「香り」「味わい」、そして「ロマン」だと思っています。
官能的な香り
古酒の魅力といえばまずは香りです。古酒にしか出すことができない香りの多重奏が脳を直接揺さぶります。
若いお酒の香りが、もぎたての果実のようなフレッシュで分かりやすい「単一的」な魅力だとしたら、古酒の香りはまさに「多重奏」。
オーケストラのように様々な香りが複雑に絡み合って、一つの美しいハーモニーを奏でています。
例えば、ブルゴーニュの赤ワインの古酒。
グラスに注いだ瞬間、まず感じるのはドライフラワーや紅茶のような華やかさ。そしてグラスを回すと、森の下草やキノコ、なめし革といった、しっとりと落ち着いた大地の香りが立ち上ってきます。教科書にも載っているような表現かもしれませんが、本当にこのような香りが出てくるのです。あとスパイスの香りもあるよね。
若いワインが持つイチゴやさくらんぼ、ラズベリーなどの赤い果実の果実味は、時間を経てドライフルーツやジャムのように凝縮され、甘く官能的な香りが出てきます。これらが渾然一体となって、グラスの中から自分に語りかけてくるような感覚。
この香りを嗅いだだけで、脳がとろけるような、ちょっと変態かもしれませんが、背筋がゾクゾクするような興奮を覚えるんです。
僕が「セクシー」とか「エロティック」と表現するのは、この複雑で、一言では言い表せない香りの奥深さがあるからなんです。
↑このコルトンも良かったわぁ。
まろやかな味わい
次に味わいです。若いお酒にあるような力強いタンニン(渋み)やシャープな酸味は、長い熟成の時を経て、驚くほどまろやかになります。
例えるなら、角張った石が川の流れで丸くなるように、液体全体の調和がとれていきます。
口に含んだ瞬間、シルクのように滑らかな液体が舌の上を優しく滑り、抵抗なく喉の奥へと消えていく。そして、飲み込んだ後に鼻から抜ける香りの余韻が、とてつもなく長い。
アイキャッチの画像になっているウイスキーのマッカランですが、これは90年代のもの。僕はマッカランがとても好きでよく飲んでいるのですが、これは別格でした。
マッカランというとあのシェリーの香りが思い出されるかと思いますが、これはウイスキーというよりブランデーのような香りになっていました。味わいは当然トゲが一切なく、とてもスムース。飲みやすすぎてあっという間に飲み干してしまいました。
↑マジで美味しかった。。。
ワインだけでなく、ウイスキーやブランデーなどのハードリカーの古酒は大袈裟かもしれませんが、この幸福な時間が永遠に続けばいいのに…と本気で思わせてくれるんです。
力強さやインパクトで押してくるのではなく、全てを包み込むような優しさと、身体の芯にじんわりと染み渡るような滋味深さ。
これは、時間が造り出した最高の芸術品としか言いようがありません。
そして何も引っかかることのない舌触り、タンニンのギシギシした感じもなく、飲み込みが良すぎるくらいでむしろ古酒を飲んでいる方がグラスを持つ手が進んでしまいます。
舌触りといえば余談ですが、そんな古酒の舌触りよりも感動したのがル・パンの2012年です。
よくメルローの真骨頂はシルクのような舌触り。と聞いたことがあるかもしれませんが、まさにその通りで、当時ワインを勉強し始めた頃の僕でも感じることができたあの感覚は一生忘れることはないでしょう。
中々飲むことはできませんが、できることならもう一度体験したいと思っています。
時間を飲むというロマン
最後に、これが古酒の最大の魅力かもしれません。
古酒は「時間」そのものを味わえるということです。
例えば、自分が生まれる前の1980年代に造られたワインを飲むとします。そのワインがブドウだった頃、世界ではどんな出来事があったのか、どんな音楽が流行っていたのか…。
そのワインはどのような人がどのような思い、そして自分の手に届くまでにどこで静かに眠っていたのか。一本の古酒は、その時代そのものを閉じ込めたタイムカプセルのようなものだと思います。
それを開けて味わうことは、過去への旅に出るようなものです。作り手の想いや、そのお酒が過ごしてきた数十年の歴史に思いを馳せながら飲む一杯は、単なるアルコール飲料という枠を遥かに超えた、知的好奇心を震えさせてくれるエンターテイメントになります。
同じヴィンテージの同じお酒でも、保存状態によって全く違う表情を見せるのも古酒の面白いところ。
まさに「一期一会」の出会いなんです。
僕がワインを好きな理由の一つは、自分が生きてきた記憶のある年のワインを飲むことで、当時何をしていたのか、誰といたのか、どんな思いだったのかを振り返らせてくれるからです。
僕自身は過去はあまり振り返らないタイプですが(いや、めっちゃ振り返ります。笑)過去の積み重ねが今の自分となっていますので、時々は思いだして懐かしんだりもします。
いかがでしたでしょうか。古酒の魅力、少しは伝わりましたか?もちろん、古酒は価格も安くはないですし、当たり外れがあるのも事実です。
でも、もし素晴らしい古酒に出会えたなら、それはきっと一生忘れられない体験になるはずです。
もしレストランやバーで古酒を見かけたら、ぜひ勇気を出して頼んでみてください。
そして、ソムリエに「このお酒はどんな時間を旅してきたんですか?」と尋ねてみてください。
きっと、意地悪だと思われ最高の物語と共にとっておきの一杯を注いでくれるはずですよ。
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90年のラフィットも最高だったな。