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神との対峙

かのロバート・パーカー曰く「ワインというよりも神話の象徴」だと言われているワインがあることを知っていますか?
まあすでにアイキャッチ画像貼ってありますから分かりますかね。笑
そうです、シャトー・ペトリュスです。ソムリエを始めた時の右も左もわからない状態でも、「ロマネ・コンティ」「シャトー・マルゴー」「シャトー・ペトリュス」というワインがあるのは知っていました。ロマネ・コンティがそのまま会社の名前になっているとは思いもしませんでしが…。
ソムリエとして働いている以上、いつかは飲んでみたいと思っていた憧れのワインというのは皆さんあると思うのですが、 僕にとってその一つがシャトー・ペトリュスでした。
今回はそんな僕が初めてシャトー・ペトリュスを飲んだ時のお話です。

神との対峙

神との対峙、その前に…

ソムリエを初めて今年で約9年になるのですが、一応それなりにいろんな国のいろんなワインを飲んできたと自負しています。
フランス、イタリア、ドイツ、スペインなどのヨーロッパ。アメリカやオーストラリアにニュージーランド。日本はもちろん、モルドバやウルグアイ、ケニア、ルーマニアなど。まだ市場であまり見かけないニッチな国のワインも飲んできました。ブラジルのワインはまだ飲んだことがないですが。
ありがたいことに結構なお値段のワインも仕事柄飲ませていただくことも多く、この一年はDRCやブルゴーニュのグランクリュを始めボルドー5大シャトーにボルドー右岸などフランスの銘醸地。
イタリアはそこそこですが、スペイン、アメリカのカルトワインなども仕事の特権を最大限に生かして飲むことができました。ソムリエにとって一種類でも多くのワインを飲んだことがあるというのはとても大事で、それがそのままソムリエとしての実力にも直結すると思っています。
今でこそそれなりにワインを飲んできた自負はありますが、初めてペトリュスを飲んだ時は今から4年ほど前。4年も前にペトリュス飲んでるやんか自分。と今では懐かしく思います。
実はもう一つ憧れのワインがありまして、ボルドーはポムロールにあるル・パン。こちらはまだ一度しか飲んだことがないのですが、その衝撃は今でも覚えています。よくお客様に「渡邉さんが飲んできた中で特に印象に残っているワインはどれですか?」と聞かれるたびにル・パンと言うほど衝撃的でした。

ぶれていますが、初めてル・パンを飲んだ時の写真。ヴィンテージは2012年。金額は2018年くらいの金額です。
20mlくらいに相当なお金をかけて飲んだのですが、こうやって今でも覚えているくらいですから頑張って身銭を切って飲んだ甲斐があったと思っています。
そんなル・パンの感想はまた別な機会にでも。今日のメインはペトリュスですからね。

ペトリュスとの初対面

さて、ペトリュスを飲む日がやってきました。それは某ワインショップの周年記念イベントで40mlくらいで2万円。自分で飲んだ一杯にかけた中では最高金額。そんな金額のする葉巻も吸ったことないですし、ウイスキーも飲んだことありません。ブランデーはおこぼれでルイ13世を飲んだことがありますが、自分でお金を払ったわけではないのでノーカウント。
今までも、多分これからも一杯2万円を超える金額を自分で払うことはないでしょう。宝くじが当たったらあるかも。笑
そんな話は置いておいてペトリュスです。店員さんに促され、グラスに注がれるのを待ちます。グラスをスケールの上に乗せて慎重に量をはかる店員さんを尻目に「どんな味がするのだろうか」と緊張感が増していきます。
「お待たせしました」と目の前にペトリュスの注がれたグラスがきました。思ったよりも濃い色合いで(2014年ですから、そりゃあ若いですからね)そして芳醇な香りが…あんまりしない?あれ?
開けたてですからね、まだ開いていないのは当然です。それでも某ワイン漫画みたいに香りがブワッと来るもんだと思っていた自分もいましたが、そこはブルゴーニュとの大きな違いですかね。と当時は思っていました。
飲む前にボトルも含めて写真を撮らせてもらったり、抜栓したコルクを見せてもらったりと、ペトリュスを飲めるという興奮と、多分次に飲めるのはいつになるかわからないという寂しさというか値段も値段ですから、自分の財力で飲むことは絶対にないわけです。というか飲めません。
そんなこともあっていつもよりも写真を多く撮りつつ、いよいよ「神話の象徴」を口にする時がきました。

神を飲んだ

「美味しい」しかわからなかったのが正直な感想です。これが本当に味わって美味しいのか、それとも「人は本当に美味しいものを食べたり飲んだりした時には言葉を失う」とよく聞くような状態に自分もなったのかは当時の僕にはわかりませんでした。
確かに味わいは濃密だし凝縮感もあるし、少し時間が経って開いてきたのか、華やかな香りやまだちょっと残る野暮ったさなど、自分が飲んできたワインのどのジャンルにも引っかかることがないということはわかります。
ですがそれが「本当に美味しい」のか、それとも「ペトリュスを飲んだから美味しいに決まっている」。と思っているのかは判断ができませんでした。
実はちょっと前にペトリュスの83年を飲ませてもらったのですが、その時の方が「美味しい」に説明ができます。ヴィンテージは違えどあの時のペトリュスはまさに神話の象徴と言われる所以がわかります。

メモを取りなさい、論理的にね

今、部下や後輩がこのクラスのワインを飲む機会があれば真っ先に言います。
「恥ずかしいとか関係なくメモを取りなさい」と。あとは「ある程度論理的に飲め」と。
実は僕もこの2014年のペトリュスを飲んだ時のメモは残っているのですが、振り返ってみるとなんかちょっとぽくないというか、感想を羅列するだけになっていて分析まではできていなかったんですね。
もちろん今みたいに論理的にワインを飲むことはできないし意識も当時はできなかったので、メモを見て「自分若いなぁ」としか思えないのですが。
今の経験値のまま当時に戻って飲んでみたいと思ってもそれは絶対に叶わないので尚更部下や後輩に言うのですが、なかなか営業中にそんなことはできないのも事実なので、なるべく僕がお客様から高級なワインをいただいたら飲ませるようにしています。そして一緒に感想を言い合います。美味しいのはいいけど何が美味しいと感じるのか?この香りはどこからくるものなのか?発生する原因は?とか。
テイスティングをして感じたことが当たっているかも大事ですが、論理的に飲む。これを続けることができれば気がついた時には他の人とは違うレベルまでいけると思いますし、成長具合が全然違うものになっているはずです。

神を飲んだ先に

ペトリュスという“神”を口にした瞬間、圧倒的な存在感に心が揺さぶられたのは事実で、でも「美味しかった」しかわからなかったのもまた事実で、実はその後悔は今でも結構残っています。
本来なら、ソムリエとして香りや味わいを細かく分析し、その素晴らしさを言語化するべきだったのかもしれない。しかし、目の前のペトリュスを前にして、そんな理性はどこかへ消えてしまった。ただ「すごい」「美味しい」という感情だけが先走り、味や香りのディテールは記憶の彼方へと薄れていった。
今思うと、あの時自分はペトリュスという神話に飲み込まれていたのかもしれません。ワインそのものを味わうのではなく、「シャトー・ペトリュス」という存在に圧倒されていただけなのかもしれません。
この体験は、ワインを飲むという行為が単なるテイスティング以上のものであることを教えてくれたような気がします。所詮は嗜好品なので美味しければそれで良いのですが、プロとしてお金をもらっている以上論理的に飲むことが大事だと言えるのです。
今後ももしかしたら幸運なことにこの“神”と対峙する機会があるかもしれません。その時は心を落ち着けて、理性と感性の両方で向き合いたいと思います。

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ちなみに最近飲んだのは1983年のペトリュス。

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