Journal / 日常
個室から聞こえた、知ったかぶり。 ソムリエはどこまで入っていくべきか。
最近ソイプロテインにハマっております。
おはようございます。渡邉司です。
この仕事をしていると仕事が終わって家に帰ってくるときには24時を回ることが多いのですが、そこでご飯を食べるか否かでこの数年ずっと悩んできたのですが梅干しを一粒食べてソイプロテインを飲む。
と言うのが最適解なのだと気づきました。健康的です渡邉司です。
別に大好き乃木坂ちゃんが飲んでいるから飲もうなんて不純な動機じゃないですよ?健康的で文化的な最低限度の生活が大事ですからね。
さ、こんな感じで日々現場に立つ僕ですが、今回は少々誤解を生むと言いますか、まあ「あるある」シリーズです。
シリーズ化する予定はないのですが、前回の記事が思ったよりも伸びていたのでもしかしたら需要があるのではないかなと思い再び書こうかなと筆を取ったキーボードを叩く次第です。
ちなみに前回の記事はこちら
では、いきましょう。
①「シャンベルタン」と聞こえた
個室というのは、少しやっかいな空間だと僕は思う。
扉が閉まっているようでいて、実は結構声は漏れていることが多い。笑い声も、グラスの音も、そしてワインについての会話も。ホールを歩いていると、断片的に聞こえてくることがある。
あの日もそうだった。
営業中に個室の前を通ったとき、中から男性の声が聞こえた。
「このシャンベルタン、どう?」
一瞬耳を疑ったが、確かにシャンベルタンと言っている。でもその部屋に出ていたのは実はジュヴレ・シャンベルタンだ。
正確にいうと「シャンベルタン」ではない。釈迦に説法かもしれないが、ジュヴレ・シャンベルタンはブルゴーニュのジュヴレ・シャンベルタン村のワインで、シャンベルタンは同じ村の中にある特級畑の名前だ。
似ているようで、格も値段もまったく違う。
でも確かに「シャンベルタン」と聞こえた。
そしてとても困った。
②どこまで入っていけばいいのか
個室の扉を開けて「シャンベルタンではなくジュヴレ・シャンベルタンですよ」と言うか…いや、言えない。正確には「言ってはいけない」と僕は思う。
相手は食事を楽しんでいる。ワインについて話しながら食事を楽しんでいる。記念日なのか雰囲気がとても良い。
「このシャンベルタンどう?」と聞こえるまでは。
そこに割って入って「それ、呼び方が違います」と伝えることはできる。事実と違うことを言っているのは確かだし、きちんとメニューを渡し、お客様が自分で選んだワインだ。もちろん値段だって書いてある。よくあるヴィンテージが違うとかそんなことは僕が作るワインリストにはありえない。
しかし実際に今起きているのはお客様が間違っていることだ。いや、もしかしたらジュヴレ・シャンベルタンをシャンベルタンと言っているだけかもしれない。それなら問題がないわけではないのだが、もしそうなら提供したワインが健全ではないとか、劣化しているとか他の問題が考えられる。
しかしここで難しいのはそこが「個室」であることだ。
これがダイニングならもしかしたら、うまく間に入ってワインの状態や味わいについてお客様に聞くことができる。
味わいについて聞かれたら答えるし、状態が本当に悪いのであれば一緒に確認することだってできる。
すぐさま対応することができればお客様との信頼関係の構築にも繋がるし、次の来店へも繋げることができる。
しかし、そこは「個室」なのだ。
果たして正しいことを聞くのが本当にサービスなのか。
これは現場で何度も考えてきた問いだ。実は持ち込みのワインがブショネ(コルクが健全ではなかった)だったことがある。
この話はまた後日書こうと思う。
ソムリエはテーブルの「番人」ではない。お客さんの会話に耳を澄ませて、間違いを探しているわけでもない。でも、聞こえてしまったとき…特にそれが後々のトラブルにつながりそうなとき、どう動くべきか。これはマニュアルには書いていない。
その日は、スルーするしかなかった。
結局最後まで直接言われることはなかったのと、個室という空間が、介入の扉を物理的にも閉ざしていた。
③「このヴィンテージ、まだ若いね」
もうひとつ、気になることがあった。
その個室で今度は別の声が聞こえた。「2014年か、まだ若いね」。
ブルゴーニュの2014年。若い…か。
確かにシャンベルタンならもしかしたら「若い」可能性はあったかもしれない。もちろん造り手にもよるが。
しかしその個室で飲んでいるジュヴレ・シャンベルタンは正直若くはない。その造り手のは今がいい時なのだ。だからおすすめもしている。
ただ、これも言えなかった。
個室の中での会話だ。お客さん同士が「若いね」「そうだね」と盛り上がっているところに「実はそうじゃないんですよ」と入っていくのは、その場の空気を壊しにいくことと同じだ。
かと言ってこちらも美味しくないものを出しているわけではない。料理に寄り添うし、値段とリストのバランス、仕入れのルート、減価率など全体の体裁やお店の核も含めた上でオンリストしている。
しかし、お客様に「美味しくない」と言われたらおしまいなのだ。
それがたとえ星付きのレストランであっても、ロマネ・コンティであっても。
④そして、クレームになった
食事が終わり、その日は何事もなく終わった。
しかし後日「頼んだシャンベルタンと違うものを出したのではないか?」というクレームがあった。
正直言ってこれはもうどうしようもできない。シャンベルタンとジュヴレ・シャンベルタンの違いだけでなく、そもそもオーダーが間違っていたと。
ちなみにジュヴレ・シャンベルタンとシャンベルタンの値段は数万円と数十万円と全く違う。ジュヴレ・シャンベルタンを選んだのにシャンベルタンを出してクレーム。ならわかるが、逆は初めてのことだった。
ちなみにお客様に確認もしているし、目の前にボトルも出しての確認もしている。しかしお客さんは怒っていた。自分が頼んだものと違うものが出た、という認識だった。
これはもう何もできないのだが、ここが知ったかぶりの一番怖いところだと思う。
間違った知識で注文して、その結果に対してクレームが生まれる。たとえば「ピュリニー・モンラッシェ」と「モンラッシェ」を間違ったらとんでもないことになる。
というかジュヴレ・シャンベルタンとシャンベルタンも同じくらい弩級なミスになるのだが…
たらればの話になるのだが、これで本当にシャンベルタンを出していたらどうなっていたのだろうか…多分その場で大変なことになっていたのは容易に想像がつく。しかし本当にシャンベルタンを頼んでいたのなら平謝りだ。
しかし悪意はないのだ。ただ、知識がずれている。そのずれが修正できずに怒りになる。修正しても多分怒りになる。
結局その場はどうにか収めた。でも後味は悪かった。もっと早い段階で確認できていれば、という気持ちが残った。
いや、残らんわ。普通に全部確認したやろが。笑
⑤ ソムリエはどこまで入るべきか——僕なりの答え
この話を通じて言いたいことが二つある。
一つは、お客さんへ。知ったかぶりは、自分が思っている以上にリスクがある。
今回のようにワインの名前は似ているものが多いし、ヴィンテージの評価も一筋縄ではいかない。わからないことはわからないと言ってほしい。そちらの方が、絶対にいい時間になる。
もしカッコつけたいならソムリエを巻き込んだ方が絶対に良い。持っている知識が間違っていようがどうしようがうまくお客様が主役になるように持っていくのも僕らの仕事だ。
もう一つは、ソムリエという仕事についての話だ。
介入すべきかどうかの判断に、正解はない。個室であれば物理的に入れない場面もあるし、会話の途中で割り込めないタイミングもある。でも今回みたいに「聞こえていたけどスルーした」という選択が、後でクレームにつながることもある。
じゃあどうすればよかったか。その問いに100点は出せないと思う。
現場でどこまで入っていくかは、正直今でも悩む。でもその悩みを持ち続けることが、ソムリエとして、サービスマンとして大事なことなのかもしれないと、あの日の後味の悪さを思い出すたびに思う。
本当に知ったかぶりはお互いに損をする。それだけは、覚えておいてほしい。
ちなみに僕は23歳くらいの頃に、Château(シャトー)とchapeau(シャポー)を勘違いして、「シャトーって帽子って意味があったんじゃないかな?」と自慢げに言っていたら「それ、シャトーで城って意味ですよ」と当時付き合っていた女性の前で笑われた過去がある。
あの店員は今も飲食業をしているのだろうか。ぜひもう一度お会いしてこう言いたい
「お前ぶっ飛ばすぞこのやろう。」
では、また。
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