こんにちは渡邉司です。
準優勝という結果については、前回のブログで書きました。今日はその続きのようで、少し違う話をしようと思います。
結果の裏側でも、ドキュメンタリーみたいな努力の話でもありません。
自分の中でもはっきりと言える。運命が変わったあの日から…現場に戻って、自分の中で何が変わったのか。
それについて、少し書いてみようと思います。
準優勝のあとも、現場は何も変わらない
コンクールが終わって、数日後…いや、その日の夜の営業から僕はいつも通り現場に立っていました。
なにぶん記念受験だったものですから、余韻に浸るとかそう言うのは何もせずいつも通りの1日です。いろいろな人に報告はしましたけどね。笑
あ、そういや社内のグループラインで速報として流れたな。まあ僕の信条は「現場第一」なので、おめでとうと言われてもピンとくることはなく、「あざっす」みたいな感じでーー。
普通に予約のお客様の対応をして、オーダーを取り、ワインを開けて、料理を運ぶ。いつも通りの営業です。
当然ですが、お客様の多くは僕が何位だったかなんて知りません。後ほどとても大きなこととなるのですが、それよりも僕は次の日にワイン会があったのでその準備に追われてました。笑
まあそんなもんよね。なんて思いましたがそれでいいと思っています。だって僕はソムリエである前にサービスマンなんですから。
現場はとても正直です。結果を持ち帰ったからといって、何かが自動的に変わることはありません。
でも、ひとつだけ。自分の中で、はっきりと違和感がありました。
僕が変えたのは、技術ではなかった
準優勝したからといって、急にワインの知識が増えるわけではありません。
サーブが派手になったわけでもないし、説明が上手くなったわけでもありません。
ついでに言えばお酒が強くなった訳でもありません。笑
ですが、「よりミリ単位にこだわる」という気持ちが芽生えました。
今までよりももっと“細かい技術を磨こう”と思ったのです。
変わったのは「待つこと」
今までも現場で一番拘っていたのは、ワインを注ぐ前の、ほんの一瞬です。
グラスを持って、ラベルを見せて、すぐに注げる状態。
多分すぐに注ぐのが正解かもしれないのですが、あえてそこで少しだけ待つ。ということを意識しました。
お客様がグラスに目を向けるのか、料理の話を続けるのか、一度こちらを見るのか。
その「間」を、以前より意識するようになりました。
この「間」が待てるか待てないか。あるいは待たせるのか待たせないのか。という感覚は僕の中でとても重要だと思っていて
ほんの数秒のことですが、この少しの「間」でそのテーブルの温度感やお客様との距離感を測っているのです。
言葉も同じです。説明できることはたくさんあります。ワインのことや料理のこと、サービスのことについて話せることはたくさんあります。
でも、あえて言わない。つい話したくなったり語りたくなったりするのがソムリエですが、僕はしません。
お客様が話し出すのを待ちますし、向こうから質問してもらえるような話し方をすることも多いです。考える時間を奪ってはいけない。
サービスの質は、言葉の量では決まらない。そう、はっきり思えるようになりました。
「ちゃんとやろう」としなくなった
とても因果なもので、別にコンクールの出場を目指したわけではありません。そもそも記念受験でしたから。
そして「コンクールなんて」とも思っていました。差別しているわけでもないですし、軽くみているわけでもありません。
ですが、前々から書いている通り、僕はサービスマンです。現場に出てナンボだと思っています。
だからこそコンクールが終わったその日も普通に営業に出て、サービスをしていたんです。
とはいえ会社内では「渡邉がなんかすごいことしたみたいだぞ」「準優勝した人がうちのシェフソムリエだ」みたいになっていたので、どこかで「評価される自分」を意識していました。
そりゃあそうですよね、だって普通に働いていてチームの一人がそれなりに有名な大会で準優勝しちゃうんですから。
しかも僕は当日の朝まで誰にも言いませんでしたし。だって記念受験だもんっ。笑
でもそれからというもの、「ちゃんとやろう」としなくなりました。
語弊があるかもしれませんが、「ちゃんとはするんです」でも「ちゃんとやろう」としなくなりました。
結果が出た以上は当然周りの反応が変わります。お付き合いのあるインポーターやお客様、よく行く馴染みのバーの常連…は変わらずキャッキャしながら接してくれますが。笑
とは言え外に出す資料の中には「準優勝」の文字が必然的に出てきます。変に期待されるのも当然わかりました。サービスをしているときに色々とコンクールの様子を聞かれたりします。
それがあまり好きではなかったというか、めんどくさいな〜と思ったりする瞬間がなかったといえば嘘になります。
だってコンクールで結果を残さなくたって普通にずっと変わらずやってきている自負があったからです。
朝は誰よりも早く来て、トイレ掃除は自分でするし、一番最後まで残って部下や後輩が帰るまで絶対帰らないと決めていましたし。
結果よりも姿勢で見せると言うことはずっと変わらずしてきたことです。特別なことなんて何もありません。
「ちゃんとやろう」ではなく「ちゃんとする」
そもそも「ちゃんとやろう」という考えは僕の中にはありません。「ちゃんとやろう」としなくなったと書いていますがね。
お客様に任せてもらえる瞬間
現場で、たまに訪れる瞬間があります。
「今日はお任せで」
「前と同じ感じで」
「あなたのおすすめで」
これらの言葉は、技術の評価ではありません。
知識量でも、肩書きでもない。姿勢への信頼だと思っています。
知識があるからこその姿勢とも思いますが、馴染みのお客様でも、初めての来店のお客様でもそれは変わりません。
無理に説明しないこと。急がせないこと。選ばせる余白を残すこと。
お客様に考えてもらってその質問や答えを導き出してあげること。
そうした積み重ねの先に、「任せる」が生まれると思います。
準優勝してから、その瞬間が少し増えた気がしています。
コンクールがくれた、一番の収穫
表彰状(もらったのはDom Ruinart 2010)や順位も、もちろん嬉しいです。
でも一番の収穫は、そこではありませんでした。
自分がどこに立って、何を大切にして、どこへ戻るのか。
それを、再確認できたこと。これが一番の収穫だったかもしれません。
コンクール自体は午前中に終わって、午後にマスタークラスというセミナーがあったので一人で昼休みを過ごしていた時に考える時間があり、そう思ったんです。
そして、「もっと上に行かなくてはいけない」とも思いました。
コンクールは特別な場所ですし、今回チャレンジして良かったなと心から思います。ですが、自分の居場所は常に現場にあります。
あの日から、現場に立つ覚悟が以前よりも自然なものになりました。
そこには醸造責任者のフレデリック・パナイオティス氏の訃報を後に聞いたと言うのもありますが。
まとめ|現場は、いつも正直だ
最後に、結果は通過点で、変化はとても地味です。
誰にも気づかれないような、ほんの小さな「間」や「待ち」。
でも、そうしたものこそが積み重なっていくのだと思います。
現場は、いつも正直です。ごまかしは効かないし、背伸びもバレる人にはすぐに見抜かれます。
だからこそ、今日もまた、いつもと変わらず現場に立ち続けようと思います。